人生の旅、出会い、そして使命感

 真夏、アメリカ西部、グランドキャニオンでキャンプした後、私、妻、長女の3人は、東部、ニューヨーク州に向けて車を走らせた。大学院でソーシャルワークを学ぶためだった。700ドルで買った車のエアコンは効かず、窓を開けたまま、ひたすら走った。妻は離乳食をバックドアガラスの近くで温めながら、「レンジがなくても大丈夫だ」と笑っていた。まだ30代、お金も仕事もなかったが、希望を持っていた。目指すべき場所を知っていたし、そこに少しずつ近づけばいいと考えていた。

 人生もこうした旅に似ている。私たちは、自分がどこへ向かっているのか、深く考える必要がある。たとえオンボロ車で、1日に数キロしか走れなくても、方向さえ間違っていなければ、いつか必ずたどり着くからだ。コロラド山脈を抜け、ネブラスカのトウモロコシ畑を過ぎて、進み続ける旅では、様々な経験をしたが、それでも目的地、目標に向かっていることを知っていたので、心は穏やかだった。

 夜、車を走らせるとき、遠い先ではなく、目の前の数メートルを照らしてくれるライトを頼りに前進した。今、見えているところをしっかりと見つめ、それを頼りに、見えない先に進んでいく。もし真っ暗な闇を見ていたなら、怖くなって進めなかっただろう。人生も同じだ。自分の前を照らすライトに映る理想と現実を、しっかりと見ながら、勇気をもって進むなら、ライトはその先を常に照らしてくれる。

 私たちは本当に何も持っていなかった。必要最低限の家財道具と中古のギターと友人から預かった1人の人物の電話番号だけだった。それでも陽気に旅を楽しんだ。窓に映る景色を喜び、豪雨や雷に震え、車の故障にも泣いた。でも旅のすべてを楽しんだ。

 ナイアガラの滝を見た後、友人からもらった電話の主に連絡して、これから大学で学ぶことを伝え、「今晩、泊めてくれないか?」と尋ねた。見ず知らずのアジア人からの電話に、さぞ驚いたことだろう。しかし彼ら家族は、私たちを家に泊めただけでなく、私の行く大学の教授を紹介してくれた。

ハンズ・ポールサンダーというドイツなまりの英語を話す教授は、私が先に大学に送っておいた山のようなダンボールを、腕まくりして、アパートまで運んでくれた。彼の奥さんは、病気になった娘を病院に連れて行ってくれた。彼らは、私が卒業するまで、ずっと気にかけ、何度も食事に招待してくれた。彼らのおかげで、アメリカでの大変な生活にも耐えることができたのだと思う。

 学業を終えた私たちを、アルバニー空港まで送ってくれたのもまたハンズだった。あの日から、時が矢のように過ぎ去った。しかし私の心の中には、「いつかポールサンダー家に再び戻り、私たちが今、こんなに幸せであること、そしてそれは、彼らのおかげであることを伝えたい」という思いがあった。そしてその願いは、2007年秋、ようやく叶った。

 旅の準備をするうちに、前の年、妻のネヴィーが亡くなっていたことを知った。この現実に私たちは打ちのめされ、悲しみに暮れた。しかしその気持ちは、「ハンズにだけは、今、会っておかなければ」という決意に変わった。

 11月3日の夕方、懐かしいアルバニー空港に着いたとき、そこにハンズの姿があった。変わらない笑顔と懐かしいドイツなまりの英語を聞いた時、心が喜びで一杯になった。晩秋の色鮮やかな木々の中、私たちの車は時間を遡り、思い出の道を走り抜けた。

 家に着いたハンズは、私たちのために夕食を作ってくれた。昔のままのテーブルに座り、食事をしたが、ネヴィーのいない部屋、キッチン、テーブルが寂しくてたまらなかった。

 食事の後、私は「大切な話がある」と言って、ハンズに座ってもらい、ありったけの思いを込めて、これまでに彼らが私たちにしてくれたことへの感謝の気持ちを伝えようとした。話したいことは山ほどあった。あれも伝えよう、これも話そうと思っていた。そのためにやってきたのだから。でもいざその時が来ると、涙が溢れ出し、何も言うことができなかった。結局、私も妻も、ただ泣いているだけだった。ハンズは私たちを抱きしめ、「ありがとう…」と言ってくれた。あの時の彼の優しい眼差しを、私たちは一生忘れないだろう。

 こうした善良な人々との出会いは偶然なのだろうか? それとも出会うべきして出会っているのだろうか? 振り返ってみると、彼らから受けた親切や思いやりが、私の中で少しずつ自分の使命感へとつながってきたことに気づく。 

あなたの人生の旅、出会い、そして使命感について考えてほしい。私たちは、ただ起きて、食べて、楽しんで、寝るためだけに生きているわけではない。確かに、向かうべき場所や目的があり、果たすべき使命があるのだと信じたい。それこそがソーシャルワーカーらしい生き方ではないだろうか?

たとえこれからの時代が、どんなに不安に満ちたものになったとしても、あなたには、向かうべき場所に向かい、出会うべき人と出会ってほしい。そして勇気をもって、使命を果たす旅を続けてほしい。